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ミルク [映画感想−ま]

アメリカで初めて、自らゲイであることを公表し公職に就いたハーヴィー・ミルク。
これはゲイの権利を勝ち取るために戦い続けた、
そんな彼の熱い戦いの記録かと思いきや、不思議なくらい優しさに満ちた作品でした。


1978年11月、サンフランシスコの市政執行委員ハーヴィー・ミルク(ショーン・ペン)は、
自分が暗殺されることを予感し、1人テープレコーダーに向かい自分の人生を振り返り始めます。
1972年5月、ニューヨーク。ハーヴィーは誕生日の夜に、
20歳年下のスコット(ジェームズ・フランコ)と出会います。
2人は新たな人生を求めてサンフランシスコへ移住。小さなカメラ店を始めます。
すると、次第に店やその周囲に多くの同性愛者たちが集まり始め、
いつしかハーヴィーはコミュニティの中核となっていきます。
周りで起こる社会問題の改善に努め、次第に政治への道を歩み始めます。
数度の落選、恋人や仲間との出会いや別れを経験し、
1977年、ついに彼は市政執行委員に当選します。


微笑みの人
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ガス・ヴァン・サントがハーヴィー・ミルクの映画を作ると聞いても、
特に不思議に思わなかったのですが、
そのミルクをショーン・ペンが演じると知った時はさすがに驚きました。
その昔、ドキュメンタリー作品『ハーヴェイ・ミルク』が公開された頃、
私は映画チラシをせっせと集めてはファイリングするという趣味を持っていました。
観たもの、まだ観ていないものを50音順にファイルするという几帳面なことをしていたのですが、
不思議と観た作品より観ていないもののほうが印象深く、
その観てないファイルの中にあった「ハ」行のトップ、
それが『ハーヴェイ・ミルク』のチラシでした。
ニッコリ微笑む男性のイラスト、そして"ミルク"という名前が不思議で、
人なつこい笑顔がとてもステキな男性。
でもこのミルクという人がどんな人なのかは一切知らず、
単館上映のドキュメンタリーという敷居の高さもあって、
ついにこの映画を観ることはありませんでした。
ただ、ミルクという人のあの笑顔はずっと印象に残っていて、
その笑顔がショーン・ペンにどうしても置き換わらなかったのです。
ショーン・ペンと言えばどちらかと言えば硬派で強面な印象だし。
ところがこの作品のスチールを見ると、とにかくニコニコ満面の笑みだらけ!
さすがは演技派ということなのかと思っていましたが・・・。


ミルクを支えるスコット
milk_2.jpg


冒頭、ジェームズ・フランコ演じるスコットと出会い、
いきなりキスシーンとなってしまったりするのですが、
この時点でもう既に何の不思議も違和感も感じませんでした。
ショーン・ペンが男性とキスすることに違和感を感じないなんて!
これは別な意味で衝撃でした。
ショーン・ペンは完璧にミルクとなり、常に微笑みを絶やさず、
激しい演説の時もどこかゲイらしい仕草をさりげなく見せる。
それがいかにも演技していますということではなく、
よく言われる表現ですが、まるでミルクが彼に取り憑いたかのようでした。
こんな"演技"を見せられては、オスカーをはじめとした主演男優賞受賞も納得です。
とにかくこれはショーン・ペンの映画。これまでで一番彼らしくない役かも知れないのに、
個人的には、これほど自然に彼の演技がスッと入って来たのは初めてかも知れません。

ほかのキャストもみんな良い演技を見せていて、そして誰も彼も実にキュート!
大好きなジェームズ・フランコ君は、あのトローンとした笑顔が実に愛らしく愛おしい!
ミルクと出会った頃は若くて可愛くて、ミルクと本当にラブラブな感じで、
やがてミルクと距離を置くようになってからもミルクを見つめる眼差しが愛情に満ちていて、
この2人は本当に深い信頼関係で結ばれていたことがわかり、
この作品を純粋に美しいラブストーリーとしても見ることも出来ました。
スコットのあとにミルクの恋人になる、ディエゴ・ルナ演じるジャックも、
相変わらず負けず劣らずカワイイのですが、彼は性格に難ありで、
でも彼のキャラクターがあったことで一層スコットとの関係の深さを感じさせてくれました。


運動はやがて頂点へ
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エミール・ハーシュ演じるクリーヴは若く頼もしく、
メガネとヘアスタイルとポッチャリした体型で、化けっぷりは一番ビックリ。
紅一点のアン・クローネンバーグを演じるアリソン・ピルは、
いかにも当時のゲイの女性らしい雰囲気。
『ハサミを持って突っ走る』に引き続いてのゲイ役だなあのジョセフ・クロスをはじめ、
カワイイ男の子満載なのはガス・ヴァン・サント作品毎度のお楽しみですが、
確かテキサスから電話して自殺を告げる男の子、顔がハッキリ見えなかったのですが、
ネットで調べたらやはりかなりの美形でした!
脚本のダスティン・ランス・ブラックのオスカー受賞時のスピーチを聞くと、
この少年のエピソードは自分を投影していたのかなと思いました。
都会以外に住む同性愛の人たちの苦悩と、勇気を出してカムアウトすることの大切さ。
このテキサス少年のシーンはとても象徴的でした。

そしてジョシュ・ブローリン演じるダン・ホワイト。
あらゆる出来事の末にミルクに銃を向けることになる彼の苦悩は少しわかりにくく、
後でいろいろ調べてようやく補完できました。
ホワイトがなぜそこまで追い詰められてしまったのかを予めわかっていたら、
もう少し彼の行動や心情が理解出来たかも知れません。そこが少し残念でした。
おそらくアメリカでダン・ホワイトに関しては周知のことであり、
この作品では敢えて描写を控えめにしたのかも知れません。


ダン・ホワイトの思いは
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ガス・ヴァン・サントはこのところ『エレファント』や『パラノイドパーク』のような、
素人を多く起用した実験的とも言える作品ばかりを作っていたので、
久しぶりにメインストリームな作品となったわけですが、
実話であることもあってか、それほど映像や演出などに凝ったところはなく、
まったく正統派の作りという感じです。
でも何度か登場する鏡やガラスを使った映像、美しい音楽の使い方、
そしてラブシーンの自然さはさすが彼らしいと思いました。
全体を通しての柔らかな空気感が、悲劇の実話であるのに、
思い詰めたところや刺々しさを感じさせない。
ミルクたちを見つめる眼差しが、とても優しさに満ち溢れている感じを受けました。
それは『エレファント』などにも通じる、客観的な優しさというのか、
冷静なのに暖かい、そして何より希望に満ち溢れている。
そこが観ていてとても心地よかったです。

つい数日前、カリフォルニア州でまた同性婚禁止が決定がされました。
このミルクの時代から30年も経っているのに、まだ戦いは続いている、
そんな現実に愕然とさせられます。
ミルクは40歳の誕生日に「これまで何も成し得ていない。自分を変えたい」と言って、
そこからすべては始まりました。
自分を変えることの大切さ、そして変えることは可能であること、
この作品はそれを、ミルクの優しい微笑みと共に教えてくれました。
そして力を合わせることの強さ、大切さも伝えていました。
現実はまだまだ厳しそうですが、この作品にはアメリカという国の希望が見える。
ガス・ヴァン・サントの伝えたかったことは、そういうことなのかも知れません。


Milk(2008 アメリカ)
監督 ガス・ヴァン・サント
出演 ショーン・ペン エミール・ハーシュ ジョシュ・ブローリン ジェームズ・フランコ
   ディエゴ・ルナ アリソン・ピル ジョセフ・クロス



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  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
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コメント 2

堀越ヨッシー

こんにちは。
「ミルク」でのショーン・ペンの微笑みは、ホントに素敵でしたね。ただ始まっていきなりのキスシーンには、ストレートのオイラ的には「ウワッ!」って感じでしたけど(苦笑)。余談ですが、ああいう場面は、男性と女性とでは受ける印象も違うんですかね〜?。
 
オイラ的には、どうしてミルクが政治活動に目覚めるのか?、その過程をもっと丁寧に描いてくれたらなあと思いました。
ショーン・ペンの演技もさることながら、オイラはジェームズ・フランコの静かな演技が、すごく印象的でしたね。「スパイダーマン」の時には金持ちボンボンのダメ男だったのに(苦笑)。彼のミルクを見つめる優しい眼差しがすごく素敵でした。
 
オイラも記事を書こうと思ってたんですが、どうもうまくまとめられず断念してしまいました...(^皿^;)不覚ッ!
by 堀越ヨッシー (2009-06-02 08:13) 

dorothy

ヨッシーさん、こんにちは。
そうですね、おそらく女のほうが結構平気なのかも知れません。
あるいは同性のほうが引いちゃうのかも。
私は女同士のキスのほうがアッ!とか思ったりするし。

>どうしてミルクが政治活動に目覚めるのか?、その過程をもっと丁寧に描いてくれたら

そのへんは確かにわかりにくかったですね。もっとミルクの心情が見えて欲しかった。
実話であることの遠慮というのか、限界なのでしょうか。


by dorothy (2009-06-02 23:47) 

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