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つぐない [映画感想−た]

久しぶりに映画らしい映画を観た満足感に浸っています。
物語そのものの力強さもありますが、
映像の美しさ、その見せ方、そして俳優たちの演技の素晴らしさもあって、
何をどう言っていいのやらわからないぐらい打ちのめされました。
ちゃんと劇場で観るべきだったと今はものすごく後悔しています。


1935年のイングランド、夏のある日。
小説家を夢見る13歳のブライオニー(シアーシャ・ローナン)は初めての戯曲を書き上げ、
姉のセシーリア(キーラ・ナイトレイ)と使用人の息子ロビー(ジェームズ・マカヴォイ)は、
初めて互いの想いに気づきます。
そして、そんな2人の関係を知り戸惑うブライオニー。
その日の夜、ある事件が起こります。
事件を"目撃"したブライオニーは犯人がロビーだと証言、ロビーは連行されてしまいます。
それから4年後、ロビーは兵士として戦地へ赴き、セシーリアは彼との再会をただ待ち続け、
ブライオニーは自分のとった行動の意味に気づきます。


atonement_1.jpg


イアン・マキューアンの原作『贖罪』は未読。
書店で何度か目にしていたのですが、その分厚さと、
"贖罪"という言葉の重さに簡単に手に取ることが出来ず、
でもこの映画化された作品を観たら、読んでなくて良かったかも知れないと思いました。
純粋に何もない状態で映画自体を楽しむことが出来たのは、
今思うと幸せなことだった気がします。
エンディングを除いてほぼ原作に忠実に映像化されているそうですが、
そうは言ってもこぼれ落ちている部分はたくさんあるのではと思うし、
物語そのものをもう一度味わい、テーマである”贖罪”について、
もう一度深く考えたいので、ぜひこれから原作に挑戦したいと思っています。

それにしてもこの作品、映像の持つ力というものを強く感じさせてくれました。
ほんのちょっとしたことも漏らさない緻密さ、
一見、小手先ワザとも受け取られかねない編集や演出も、
最後まで観ればそれらすべてに理由があることがわかる多数の仕掛け。
廊下で光る髪飾りや図書室のランプ、懐中電灯などの印象的な光の使い方や、
川や噴水など何度も形を変え登場する水中シーンの美しさ、恐ろしさ。
同じシーンを別の視点から見せる、繰り返す、巻き戻す、
そのことから見えてくる現実と作者の意図。
見えたものや見えなかったもの、そこにあったものやなかったものを、
無駄なく、また想像力の余地を残しつつ感じさせてくれます。


atonement_2.jpg


そして何と言っても圧巻なのは、ロビーが戦地のフランスで仲間2人とたどり着く海岸のシーン。
何万人ものイギリス兵が祖国へ帰る船を海岸で待っている様子を、
ワンカット長回しですべて見せきります。
ロビーたちが海岸にたどり着いたところから始まり、ほかの兵士と会話し、
騒ぐ者や歌う者、しゃがみ込みあるいは倒れかかって来る者たちの間をすり抜け、
一方で馬が射殺され、武器が運ばれ、車両が破壊され・・・と、
海岸で行われているあらゆる出来事を1つのカットで見せていきます。
合唱する歌声はバックで流れる音楽の中に溶け込んでいき、
砂や泥、血や嘔吐物で溢れた景色なのに、美しささえ感じます。
長回しワンカット撮影は、その技術と労力だけで評価がプラスされがちなものですが、
このシーンはもちろん技術的な素晴らしさは言うまでもなく、
それ以上に、何も言葉では説明されないのに限りなく文学的で力強い。
これほどの映像を作り出すこのジョー・ライトという監督の力に、ただただ驚かされました。
前作の『プライドと偏見』でも長回しはたびたび登場したので、
彼のこだわりの部分なのかも知れませんが、
それがいずれもテクニックに走っているということではなく、
物語としてきちんと役目を果たしているところが素晴らしい。

また音の使い方も実に印象的。タイプライターの音で始まり、
それが驚くほど素晴らしくスコアの中に溶け込んでいきます。
なぜタイプの音が響き続けるのかは最後に納得させられるのですが、
それを劇伴に溶け込ませ、意味を持たせるという手法には驚かされました。
ほかにもライターの音、何かを叩く音、足音やドアの音など、
効果音がそのまま音楽の一部となったり、
バックのピアノの曲に合わせて実際にセシーリアがピアノの弦を弾いてみたりと、
どこまで意図して予め音楽が作られていたのか。
オスカー作曲賞受賞も納得の素晴らしさです。


atonement_3.jpg


キャストもすべて驚くほど良い演技を見せています。
なんと言っても13歳のブライオニーを演じるシアーシャ・ローナン!
少し大人びているようで、でもまだ十分に子どもであり、
その濁りのない、けれどもガラスのように冷たい瞳で真っ直ぐに世界を見つめる。
悪意のない、純粋無垢な心が大人たちの人生を狂わせてしまう恐ろしさを、
これ以上ない完璧さで表現していました。
それとジェームズ・マカヴォイはやはりいい役者だと再認識。
初めの頃は明るい未来が待ち受けていることから来る自信に満ち、
セシーリアを愛し、そしてブライオニーにも愛情ある眼差しを注いでいた男が、
奈落の底に突き落とされ、やがて戦地をさまよい歩く時にはその瞳は絶望で覆われている。
ラストの彼の表情には本当に胸を締め付けられる思いでした。

映画の最後に語られる"真実"によって、
ここまで私たちが見せられてきたものの意味が知らされるわけですが、
この一種のどんでん返しとも言える告白に、
あのシーンが、あのセリフは?と、あらゆることが次々と押し寄せてきました。
この複雑な構造の物語を2時間の中に見事に収めきった監督の力量にただ感服。
これでまだ長編2作目なんて!
ちなみに最後のシーンでインタビュアーに扮していたのはアンソニー・ミンゲラでしたが、
どういう経緯での出演かわかりませんが、作風も演出家としての力も、
ジョー・ライトはアンソニー・ミンゲラの正当な後継者になりそうだと感じました。


Atonement(2007 イギリス)
監督 ジョー・ライト
出演 キーラ・ナイトレイ ジェームズ・マカヴォイ シアーシャ・ローナン ロモーラ・ガライ
   ブレンダ・ブレッシン ヴァネッサ・レッドグレイヴ パトリック・ケネディ 
   ベネディクト・カンバーバッチ ジュノ・テンプル アンソニー・ミンゲラ



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