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再会の街で [映画感想−さ]

アラン(ドン・チードル)はマンハッタンの歯科医。
クリニックは繁盛し、妻ジャニーン(ジェイダ・ピンケット=スミス)と、
2人の娘とともに安定した生活を送っていますが、
妻とはこのところ、どこか噛み合わないものを感じており、
また、少し困った患者ドナ(サフロン・バロウズ)の存在にも悩まされていて、
セラピストのアンジェラ(リヴ・タイラー)に何かと悩みを打ち明けたりしていました。
そんなある日、アランは街で大学時代のルームメイトのチャーリー(アダム・サンドラー)を見かけます。
彼の身に数年前に起こった悲劇のことは新聞で知っていましたが、会うのは十数年ぶり。
しかしチャーリーはアランのことを憶えておらず・・・。


アランとチャーリー
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チャーリーに起こった悲劇、それは妻と3人の娘を911テロによって亡くしたということ。
そのことがあって以来彼は堅く心を閉ざし、世間との関係を絶って生きているのでした。
911テロのことは予告編などでも説明されるので事前にわかっていることなのですが、
実際に劇中では、中盤になってようやくチャーリー自身の口から語られるまで、
あまり具体的に言及されません。
911テロという事実を示さないことにより、そのことに囚われることなく、
純粋にチャーリーの悲しみを感じられるようで、とても良い演出だと思いました。
テロの遺族でなくても愛する人を失う悲しみは同じで、
誰もがその悲しみを経験する可能性があり、その傷は同じように深いはず。
誰の傷のほうがこちらの傷より深いとか浅いとかいうことはないし、
比べるものでもない。
誰だっていつだって、チャーリーのようになってしまう可能性があるのです。

深く傷ついたチャーリーの姿を見て、アランはなんとかしてあげたいと思う。
何かとチャーリーの世話をするアランに対して妻は、
「チャーリーの"自由"を羨ましいと思っている」と言います。
でも実際は羨ましいというより、チャーリーをどうにかしようとすることで、
自分の現実問題から逃れようとしているのかも知れません。
チャーリーが妻と娘たちの存在を知らないアランと付き合うのと同じように、
アランも現在の自分の状況を知らないチャーリーと大学時代のように遊ぶことで、
現実逃避しようとしている。
悩みや心の傷は人それぞれで、どうにかしたいと思いながら自分ではどうにもならない、
そんな時に"再会"した2人は、ただ昔の思い出の中だけで生きていくのか、
それとも明日のために一歩踏み出すことができるのか。
映画はそんな2人の関係を、ユーモアを交えながら描いていきます。


再会は2人を幸せだった頃に戻す
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やがてチャーリーがある事件を起こすことがきっかけとなって、
いよいよ現実と向き合わなくてはならなくなってしまいます。
チャーリーは妻の両親との接触をずっと絶ち続けていたのですが、
とうとう審問会という公の場で過去を振り返らなくてはならなくなります。
チャーリーと義理の両親、どちらも被害者でも加害者でもない、
家族であり同じテロ事件の被害者なのに、なぜいがみ合わなくてはならないのか。
このことも実に不幸なことです。
ここで判事としてドナルド・サザーランドが登場するのですが、
彼がとても正しくてシンプルなことを話します。
彼のこの言葉はチャーリーの居ない場所で語られるため、
直接チャーリーの耳には届かないのですが、
チャーリーもまた、自分の気持ちを妻の両親に伝えます。
誰かに無理強いされるのではなく、セラピストの力や入院という形を取るのでもなく、
1つの答えらしきものを見つけ出します。
人の心の難しさ、そして可能性を感じさせられる素晴らしいシーンでした。

原題の『Reign Over Me』の元となったザ・フーの『Love, Reign O'er Me』を始め、
70年代〜80年代初頭のロックの名曲がとても効果的に使われていて、
このあたりでグッと来る年代の人も多いかも知れません。
外界の”雑音"を遮断するために、常にチャーリーが被り続けるヘッドフォン。
そこに流れる音楽は、チャーリーにとって妻や娘たちの存在がまだ無い頃の音楽であり、
彼が今、その音楽の中で生きていることを観ているこちらも共有できる仕掛けです。


再会の街は再生の街
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最初に観た時にはボブ・ディラン!?と思ってしまったアダム・サンドラーの風貌。
ストーリーもいつもの彼のとは路線が違うことは確かなのですが、
コメディ作品でもどこか寂しげな表情をしていたり、
かと思うと突然キレたりといった感情の起伏の激しい役柄が多い人なので、
これが意外なことにこのチャーリーのキャラクターにピッタリはまっていました。
ドン・チードルも素晴らしい。誰が見ても幸せな日々を送っているようで、
どこか満たされないものを持っている不安げな表情がこちらの心を揺さぶります。

911テロで失われた多くの命、そしてその数だけ遺族はいて、
今もその人たちは深い悲しみの中で生きている。
この先何十年経ってもその悲しみが消えることはない。
では、私たちのような第三者がそんな遺族たちにしてあげられることはあるのか、
あるとしたらそれはどんなことなのか、あるいは何もしないことが大事なのか、
そんなことが、見終わっても頭の中をずっと駆けめぐっています。
チャーリーを始め、アラン、アランの患者ドナなど、
何かに傷ついた人たちがとりあえず最後は何かしら答えを得ることが出来ます。
でもそれは正解ではないかも知れないし、誰にでも当てはまる答えでもない。
答えは1人に1つでもないかも知れない。
でもそうやって、人は生きていくしかないのかも知れません。
チャーリーがキッチンのリフォームを繰り返すことになる、ある"後悔"。
こういう話はたびたび耳にし、そのたびに毎日誰にでも優しくしよう、
後悔することなく日々生きようと思うのですが、これがなかなか難しい。
とりあえず、ゴメンと謝れる相手のいる現実を幸福だと思い、素直に受け入れ、
毎日を正直に生きたいと思います。


Reign Over Me(2007 アメリカ)
監督 マイク・バインダー
出演 アダム・サンドラー ドン・チードル ジェイダ・ピンケット=スミス リヴ・タイラー
   サフロン・バロウズ ドナルド・サザーランド



再会の街で [DVD]

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コメント 2

かぴー

これはいい映画でしたね。お嫁さんのほうの両親のダメっぷりとかも、個人的にツボでした(笑)
by かぴー (2009-04-10 20:22) 

dorothy

かぴーさん、こんにちは。
私はあの両親もどうしていいかわからない悲しみの中で生きていて、
人間ってなんて弱く、人間関係とはなんて難しいんだろうと感じました。
最後にチャーリーが母親にキスした時の母親の表情で号泣してしまいました。
思い出してもちょっとウルッとしてしまいます。
コメント& nice!ありがとうございました。
by dorothy (2009-04-11 02:28) 

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