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トランスアメリカ [映画感想−た]

冒頭、主人公の名前が"ブリー"とわかった時点で、
「いや、ブリーじゃなくリネットでしょ?」とツッコミを入れた人も多かったと思いますが、
『デスパレートな妻たち』のリネット役でお馴染みフェリシティ・ハフマン主演。
ゴールデングローブで主演女優賞を受賞するなど、とても評価の高かった作品です。


性同一性障害である主人公ブリー。
"最終的"な手術を翌週に控えたある日、ニューヨークから1本の電話が入ります。
窃盗事件で拘置されている少年が"父親"に連絡を取りたがっているというのです。
それは、ブリーが昔、たった一度だけ女性と関係を持った時の息子だったのです。
仕方なく彼の身元引受人となるべく、ロサンゼルスからニューヨークへ向かうのですが・・・。


父と息子
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世間から"埋没"して生きている、とブリーは言います。
その通り、本当に地味に、ひっそりと生きている感じです。
恋人の存在とか、仕事先での人間関係のようなものはほとんど語られません。
トランスジェンダーであることが好奇の目で見られるとか、差別を受けるというような表現もありません。
それがかえって自然な感じがして、実際世の中ってこんなものなのでは?とヘンに納得してしまいました。

手術を受けるにあたって、カウンセリングを受けたり同意書が必要だったり、
なかなか女性への道のりは険しそうです。
たぶん手術費用はものすごいのだろうし、毎日のホルモン剤だって高価だと思います。
そのためなのか、ブリーはメキシコ料理店で働きながら電話セールスの仕事もしています。
いずれもいわゆるキチンとした仕事というイメージではありません。
もしかしたらそういう仕事にしか就けないのかも、とも思うし、
あえてそういう場所に身を置いている、とも思えます。
その姿は、見ていてちょっと切ない気がします。

そうは言っても、手術によってブリーは晴れて身も心も女になり、
幸せになれるのだろうと思うのですが、
それに比べて、息子のトビーはかなり危うい生き方をしています。
母親一人の手で育てられ、その母親は自殺。
どこかの時点で継父が現れたのでしょうが、そいつにヒドイ目に遭わされ、
たぶん学校にもまともに行ってません。
ドラッグもやれば、男相手にカラダも売ります。
映画の仕事をしたい、というのはポルノ映画だったりするし、
動物が好きだからペットショップの店員になりたいとも言ってみる。
それは無知から来るのか、自分というものをわきまえているのか。
本当に彼には未来が見えません。
ブリーのほうが一見、問題を抱えているように思えるのですが、
息子のトビーの人生こそ相当ヒサンでかわいそうに思えました。


男前、だけどヒサンな人生
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そんな2人がニューヨークからロサンゼルスまで、まさに"トランスアメリカ"するわけですが、
道中、それぞれの家に立ち寄ったり、新しい出会いがあったりします。
ブリーはトビーに真実を告げないまま旅は続きますが、
ブリーを鬱陶しく思い、最初は反抗的な態度をとっていたトビーも、
いろんな出来事を通して、少しずつ心を開いていきます。
息子なんて!と思っていたブリーも、親として深くトビーを愛します。
その2人が最後には親子として心を通わせる・・・とならないところがこの作品のおもしろいところ。
特にトビーにとってはブリーが何者であるのか、それがわかっていく過程が強烈過ぎるのです。

2人の状況の重さを考えると、ヘビーな内容になってもおかしくないのですが、
基本的にこれはコメディ作品として作られています。
その一番のコメディ部分と言えそうなのがブリーの実家です。
父親はユダヤ教徒、母親はカソリック、妹はアルコール中毒から立ち直ったところ・・・と、
これまたかなりずいぶんな設定です。
自分の息子が女になることを絶対に認めようとしない母は、
最初ブリーを家に入れようともしませんが、
ブリーが息子、彼女にとっての孫を連れていると知った途端に態度が急変。
トビーだけを置いて行けとまで言い出します。
その様子を見て茶化すような父と妹。
そんな家庭にあって、ブリーがこれまでどう生きてきたのかが見えてくるわけですが、
それには胸の痛みを感じずにはいられません。
それはトビーも同じことで・・・その結果、ここでとんでもない展開になってしまう。
まさに泣き笑いでした。


"紳士"カルヴィンとの出会い
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『デスパレート〜』のリネットも、どちらかというと男らしいタイプですが、
この作品の彼女は、本当に”女性になろうとしている男"にしか見えません。
なんといっても顔のインパクトがすごい。
かなり特殊メイクに近いと思うのですが、
ノーメイクとも違う、とにかく不思議な表情。そして低く落とした声。
確かにこの作品における一番の見所でしょう。
トビー役のケヴィン・ゼガーズは、あの両親からこの子が生まれる?と言いたくなるほどの美形少年です。
どうにも救えないトラッシュぶりなのですが、
動物好きな一面を見せたり、子どもっぽい行動をとってみたり、
かと思えば男女を問わず(!)誘惑する眼差しの大人っぽさなど、
いろんな表情を見せ、彼の内面の複雑さをよく表しています。
そして、道中に出会うネイティブアメリカンのカルヴィン。
ネイティブアメリカンといえばこの人!のグレアム・グリーンが演じていますが、
彼がとても良い雰囲気を出しています。
ブリーのことを女と信じて疑わず、彼女に対する接し方はとても紳士です。
また、トビーに対しては、男というものの生き方をきちんと見せます。
彼との出会いはブリーにも、そしてトビーにも大きなものだったと思います。
この作品中、唯一しっかりとしたマトモな人だと言ってもいいかも知れません。

この旅を通して、ブリーはトビーの親、それも"母親"となっていきます。
数日後の手術で彼女は晴れて"女性"になるはずでした。
それがこの旅を経験することにより、女を越えて母親になってしまった。
それは本人が望んでいた以上のことだったのではないでしょうか。
いわゆる世間からちょっと隔絶した存在とも言える2人。
でも、これまでの苦労より、これからはちょっといいことがあるかも、
といったぐらいの心地よい後味を残す、とても愛おしくなる作品でした。


Transamerica(2005 アメリカ)
監督 ダンカン・タッカー
出演 フェリシティ・ハフマン ケヴィン・ゼガーズ フィオヌラ・フラナガン 
   エリザベス・ペーニャ キャリー・プレストン グレアム・グリーン



トランスアメリカ

トランスアメリカ

  • 出版社/メーカー: 松竹
  • メディア: DVD



タグ:映画
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コメント 2

whitered

面白そうな映画ですね。フェリシティー・ハフマンが男役?いえ女役?なんとも複雑な設定ですね。でも、この人の遠くを見るような目がいいですね。アメリカの今の問題を全部抱えたような映画ですね。トビーにもいたく同情してしまいそうです。
by whitered (2008-05-26 17:11) 

dorothy

whiteredさん、コメント & nice!ありがとうございます。
なかなかハードな内容ですが、それほど重くないところが私は気に入りました。
フェリシティ・ハフマン、もっと映画でも活躍して欲しいです。
機会があればぜひご覧になってみてください。
by dorothy (2008-05-27 00:43) 

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